傲慢な二人の詩<pride>自尊心


 その体に、指を這わせて。
 細身なのに、硬い、その弾力に、陶酔して。
 掌に、腕に、肩に、首筋に、頬に指を滑らせて。
 閉じられた瞼にかかる睫までも、自分だけのものであればいいと。
 そんな浅ましい欲望は胸の内に押さえ込んで。
 それでも、その全てを手に入れることが出来たなら、どれだけ感じ入れるのだろうかと。
 お前に溺れることが出来たなら、オレはどれだけ救われるのだろうかと。

 その身体を、強く掴んで。
 ちらりと目線を上げると、瞳に映るお前の姿。
 オレの瞳の中に、お前の姿が映り込む。
 腹立たしいまでの穏やかな微笑に、薄い口唇の端を吊り上げて。
 蒼い瞳に宿るのは深くたゆたう水底のような闇。
 今この時だけは、お前は、オレだけのもの。
「何がしたい? 俺を誘ってるの?」
 体を掴んだ手を逆に掴まれて、頬にその指先を這わされる。
 嫌味にも、まるで嘲るかのように少し上から見下されて。
 それでも脈打つ心臓。けれど決して顔には出さない。決してそれをお前に悟らせない。
 それがオレにとって絶対の自尊心―プライド―だから。
 お前は気分を害した様子もなくただ緩やかに微笑して、最後に頬を微かに撫ぜて手を離す。
やせ我慢してる? ま、それが君らしいけど」
「その言葉、そのままテメェに返してやるよ」
 態と蔑みを含めた笑みで返す。
 僅かにを顰めたお前の、自分のそれと色素の酷似した、しかし確実に違うくるりと巻いた癖のある金糸を乱暴に掴んで、
 それ以上傍に寄ることはなかった。

 それは、
 オレからお前に溺れることは決してないと、それがオレの自尊心だから。

 同時に、
 お前からオレに溺れることは決してないと、それがお前の自尊心だから。

 だから、
 その身体に触れることだけに、敢えて甘んずるのだ。



 その指先に、口付けて。
 甘い、その香りに、眩暈すら、感じて。
 額に、瞼に、眦に、頬に、口唇を落として。
 閉じられたその瞳に映る姿が、自分のものだけであればいいと。
 そんな浅ましい欲望は胸の内に押さえ込んで。
 それでも、その口唇に己のそれを重ねることが出来たなら、どれだけ心地よいだろうかと。
 君に溺れることが出来たなら、俺はどれだけ救われるのだろうかと。

 その指先を、甘く噛んで。
 ちらりと目線を上げると、瞳に映る君の姿。
 今俺の瞳に映るものは、君の姿だけ。
 挑戦的なまでの不敵な笑みに、艶やかな赤い口唇の端を吊り上げて。
 蒼い瞳に宿るのはギラギラと燃える炎のような光。
 君の瞳に映るものは、今は、俺の姿だけ。
「……沸いてんじゃねぇよばぁーか」
 手を取ったその手を逆に掴まれて、掌に口唇を寄せられる。
 そのまま、先程のリフレインのように上目使いに見つめられて。
 どくり、と心臓が爆ぜる。けれど決して顔には出さない。決してそれを君には悟らせない。
 それが俺にとって絶対の自尊心―プライド―だから。
 君は苛立たしげにはっきりとわかるよう舌打ちをして、最後に掌をぺろりと舐めて口を離す。
「ヤセ我慢しやがって……おもしろくねぇの」
「その言葉、そっくりそのまま君に返すよ」
 態と蔑みを含めた笑みで返す。
 不機嫌さを顕にして後ろを向いた君の、自分のそれと色素の酷似した、しかし確実に違う真っ直ぐな金糸に口付けて、
 それ以上触れることはなかった。

 それは、
 俺から君に溺れることは決してないと、それが俺の自尊心だから。

 同時に、
 君から俺に溺れることは決してないと、それが君の自尊心だから。

 だから、
 その指先に触れることだけに、敢えて甘んずるのだ。