移ろい征く空の色
上.青空を塗りつぶした夜 一章.週末には薔薇の花束を

008.コンチネンタルな一室で




 質も値段も決して悪くは無い宿屋の一室。
 部屋はさして広いわけでもなかったが、ベッドは十分な大きさのものが据えられている。シーツも白くさらりとしていて清潔そうだ。
 宿泊費は普段泊まるような宿と比べて決して安いとは言えないけれども、それにしてもこの部屋にしてあの値段なら破格といってもいいだろう。
 幸いなことに今なら懐も暖かいので、多少の出費は容認できる。
 リエラベスクのそんな宿で、新参の少女を含めた四人は据えられた二つのベッドに、二人ずつに分かれて座っていた。
 もっとも、より正確に述べるとすればそこには誤りがある。
 何故なら一人はベッドに座っていたわけではなく、その上で健やかな寝息を立てていたのだから。夕刻までまだかなりの暇があるこの時間に、だ。
 言うまでもなく、寝ていたのはレンに他ならない。
 ただここ最近の日常と違ったのは、今回に限ってはハリセンの音が響かなかったことくらいか。

 街中での騒動の後、気絶した男達はそのままに二人はとりあえず少女を連れて宿に向かい始めた。
 放っておけば誰かが何とかしてくれるだろう。街は既に、常の賑わいを取り戻しつつあった。
 フィル達三人がレンのいる宿を探して漸くその宿の一室に辿り着いた時。
 案の定というべきか予想通りというべきか、彼は部屋の隅に据えられたベッドに横たわって、すやすやと寝息を立てていた。
 時間帯で言えば昼寝を少しすぎたくらいの時刻。
 子供のように邪気の欠片もない表情で穏やかに眠る彼の年齢を疑いたくなる人間は、一体どれほどいることか。
 何処か悟ったような表情で、呆れたようにフィルは小さな溜息をこぼした。腹が立たないわけではなかったが、それよりも先に感じるのは『呆れ』だった。
 フレイも慣れてしまっている所為か最早何もコメントはなし。
 唯一少女だけが奇妙なものを目にしたと言わんばかりに驚いた表情を隠せない。
 だがフィルは『気にするな』と言って、ベッドに寝ているレンの上にぼすりと腰掛けた。決してレンの寝ているベッドに、ではない。
 ちょうどレンの腹の上に座ったのは明らかに故意だ。
 だが鍛えられた腹筋は当人が眠りについた今でさえ、フィルの軽い体重をものともしない。
 その衝撃に一瞬呼吸が止まり、僅かな呻き声が漏れる。しかし眉間に寄せられた皺はすぐに解け、またすぐに穏やかな寝息を立て始めた。
 今度は諦めたような溜息を付くと、フィルはごくごく自然な動作で足を組んで見せた。
 汲んだ膝の上で両手の指を絡め、知らず知らずのうちに肩に張っていた力を抜く。
「まぁ、色々と気になること……ってか突っ込みたいことはあるかもしれないけど一先ずそれは置いといて。
 とりあえず座ったらどう? 立ったままじゃ落ち着いて話なんか出来ないでしょ」
 座るといってもベッドしかこの部屋には無いけど、と苦笑したフィルに従って、未だ立ったままだった二人はフィルの向かいのベッドに腰を下ろした。
「まずはそうね……名前も聞いてなかったわ。私はフィル。で、貴方の隣に座ったのが」
「フレイ」
「で、こっちの真昼間っからぐうすか寝てる馬鹿はレンよ」
 ぺしりと額を叩くが、紹介された当の本人はやはりまだ眠ったまま。最早ここまでくると賞賛を贈りたくなるほどの神経の図太さだった。
「それであなたは?」
「あ、はい……えと、私ティティっていいます」
 フィルの声に、未だ呆けたような顔でレンを眺めていた少女が弾かれたように顔を上げた。漸く口を開くがその口調は固い。
「あーそんなに緊張しないでってば。話し辛くなるでしょ?
 はいとりあえず落ち着くためにはまず深呼吸。吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー吸ってー吸ってー吸ってー」
「待ったフィル、それってわざと!? そんなに吸わせてどうするのさ! 息できないだろ」
「何言ってんのよわざとに決まってるでしょ?
 あんたちょっとでも緊張をほぐしてあげようという細やかな私の気遣いを何だと思ってるのよ」
「フィルのは冗談に聞こえないんだってば。
 大体自分で細やかって言ってる時点で説得力皆無だよ」
「何ですって!? ちょおっと今のは聞き捨てならないわよ!」
 例にもよってやはり一瞬。どこからともなくフィルはハリセンを取り出した。だがフレイもいい加減慣れたのか怯まない。
 互いに睨みあったまま、ぴんと張り詰めたような空気が場に流れる。……と。
「…………煩い」
 場の空気をぶち壊す不機嫌な、しかしどこか眠たげな声音は、フィルのものでもフレイのものでも、まして少女のものでもなかった。
 寝起きの所為か、やや掠れ気味のテノール。そんな声で話す人間はこの場には一人しかいない。
 突然の介入者の声に、つい先刻まで睨み合っていたフィルとフレイがはたと視線を向けた。
 レンはやや眠たそうな目で見返してくる。どうやら一連の騒ぎで目が覚めてしまったらしい。寝癖でひどい跳ねようの柔らかそうな銀髪を、骨ばった長い指がくしゃりと撫でた。
 彼は、眠りすぎた所為かやや腫れぼったくなった目をまだ眠そうに擦りながら、それでも起き上がろうとした。
 しかしその途中でそれが不可能なことに気がつく。視線で辿ると、その原因が見て取れた。
 鍛えられた腹筋は、自分を見つめる黒髪の少女の椅子になっているではないか。『尻に敷かれる』とはまさにこのこと。この場合用法が若干違っているが。
「……重い」
「花も恥らう乙女に向かって誰が重いかぁ!!」
 一層不機嫌そうに眉を寄せて呟いた青年の頭には、鋭い勢いでハリセンが振り下ろされた。花も恥じらう乙女とやらは恐ろしい。
 レンはその亜音速にも達しそうな、超高速で振り下ろされたハリセンを両手で挟み込み、額に当たるぎりぎり手前で止めて見せた。
 寝起きのそれとは到底思えない素早い動き。まさに達人技。ただし傍から見るとそれらは曲芸にしか見えないが。
 人とは思えぬ速度でどこからともなくハリセンを取り出し振り下ろした少女と、それを必死の形相で止める青年の姿は実際酷く滑稽だ。
 上から抑え込もうとするフィルの力と、下から押し返すレンの力。両者の力は拮抗していた。だが……
「甘ぁい!!」
 これは誰しもが予想し得ぬことだった。
 続く第二弾。剣に例えれば白羽取りされたままの右手のそれとはまた別に、何処からか二本目が彼女の左手に現われていた。本当にいつの間にか。
 無防備な側頭部に斜め下からの抉るような一撃。白羽取りしていたハリセンからも手を放し、レンは思わず頭を押さえて呻き声を漏らした。
 フィルはハリセンを両手に持ったまま仁王立ちで、鋭い頭の痛みに呻くレンを眺めていた。
「全く。失礼にもほどがあるったらありゃしない」
 言いながら、ちょいちょいとレンの足をハリセンでつつく。曰く、『さっさとその足をどけて私の座るスペースを作れ』。
 その酷い扱いにも渋々といった様子で従ったレンがベッドに腰かけると、開いたスペースにフィルは再び腰を落ち着けた。
 そしてそこで漸く、青年の視線が向かいに座る見慣れぬ少女へと向けられる。
「……誰だ?」
 聞くタイミングはとっくの昔に過ぎている。遅すぎた疑問詞だった。
 その場にいた彼を除く誰しもが嘆息する。
「いや、あんたかなり今更だから、それ」
 言葉と同時、頭の中で起こる思考との葛藤。これまでの経緯を全て話すべきか否か。
 どうかと問われれば当然話すべきなのだが、ことの始まりから話すというのも面倒だ。大体からしてまだ全ての情報が集まってすらいない。
「つまりはまあ、かくかくしかじかでこういう状況になって、今からまた話を聞くところなわけよ。わかった?」
「わかるか」
 一蹴。至極もっともな彼の疑問に、フィルの額には青筋が一つ。
「ああもう! 説明が面倒だからかくかくしかじかで済ませちゃいたいのよ! そのくらい理解しなさいよ」
 もう無茶苦茶だ。
「ああ、なるほど……」
 納得するのか。
 突っ込むべきところは多々あるのだが、それすらも今更だ。更に言うと面倒なのだ。
「あのぉ……」
 思わぬ方向に収束しかけた場を元の方向に引きずり戻したのは控え目な一言。
 他の二人がそんな声を出すとは到底思えなかったためか、三人分の視線が一直線にそちらへと向けられる。
 三人の中に互いに対して今更そんな謙虚な姿勢をとる人間などいない。むしろそれぞれがそんな態度を取られたら気味が悪い、くらいには思っているかもしれない。
 なんとも傲岸不遜だ。揃いも揃って。
「そろそろ話を元に戻してもいいですか?」
 そんな奴らに対してこうもあっさりと自身の主張を述べてみた辺り、この少女も外見不相応に自己主張が激しいかもしれない。
「あ……そうね、そうだったわ……
 なんかすっかり話が逸れちゃったけど、結局何だったっけ」
「自己紹介をしようってところからだよ。因みにオレ達はもう言った。……兄ちゃんは寝てたけどフィルが代わりに言ったよ」
「そうそう、それ。自己紹介。見てわかると思うけど私達は旅人だからその他は省くってことで。
 で、貴女は? 簡潔に分かりやすくかつ的確に説明よろしく」
「はあ……えと、名前はティティ、です。
 ちょっと前に旅を始めたところで、北の方から来ました」
「北ってもしかしてリーディア」
「の近郊にあるすっごく辺鄙でまともに人に知られてもいない小さな村です」
 フィルの疑問を遮るようにして言葉を繋ぐ。何となく胡散臭い。
「ふーん……まあいいわ。
 で、ティティ、ぶっちゃけて言うとあんた、何であんなのに追われてたの?」
 あんなの、というのは勿論のこと、先程フレイにより壮絶な勢いで転ばされた挙句あっさりと気絶した、あの間抜けな男二人のことである。
「あ、はあ、まああれは話すと長くなるんですけど」
「構わないから説明よろしく」
「はあ……とりあえず結論から言いますと、あの方達が追いかけてたのは私じゃなくてですね。
 一週間くらい前でしたでしょうか、何でも土の月神の神殿の巫女姫様が神殿から脱走しちゃったそうなんですよ」
「…………は?」
 割とさらりと発せられた爆弾発言にはもれなく理解不能の一言が付いてきた。
「ですから、巫女姫様が脱走しちゃったそうなんです。
 でも巫女姫様なんて、そんなに人前に出れるわけないじゃないですか。だからほとんど顔を知ってる人がいなくて、仕方ないので大体十代半ばから二十歳前の女の人を近くの町や村を当たって片っ端から集めてるらしいですよ。それも結構無理やり」
「何でまたそんな面倒なことを……」
「だって巫女様って言うからには顔があちこちに知られると困るらしくて、似顔絵とかで探すわけにもいかないらしいですし。
 それで近隣から娘さん達を集めてるそうなんですけど、身元が証明されない人――つまり主に旅人なんですが――は巫女姫様が見つかるまではリーディアから出してもらえないって話も聞きましたよ」
「は!? ちょっと待ちなさいよ、つまり今からリーディアに行ったらその傍迷惑な巫女さんが見つかるまでリーディアから出られなくなるってこと!?」
「まあ、そういうことになりますね。
 因みに先程の方々は多分先立ちの追っ手なので、もう少ししたらこの街にも大勢の人が娘さん達を集めに来ると思います」
 至ってのほほんとした調子でティティは語って見せたが、それが事実ならそんなに能天気にしている余裕はない。この場だけで条件に当てはまる人間が二人もいるのだ。
 もし捕まってリーディアに行けたとして、その調子ではすぐに呪いを解いてもらえるかどうかは怪しいものだ。その上その場に拘束されてそのまま新月を迎えてしまえば、フレイのいないフィルは一巻の終わり。
 どう考えても条件が悪すぎる。
「あーもう何よそれ! 予定変更確定!?
 土の月神の神殿がダメなら一番近いのはキエラかカセルドじゃない」
「オレ達キエラ大陸から来たのにまた逆戻りは嫌なんだけど」
「私だってカセルドに行くのは嫌よ!」
「それ以前に今からグラスカに向かったとして既に追っ手がいないとは限らないが」
 訂正。条件が悪いどころか割と絶望的だった。
「…………」
 フィルからの無言の圧力がレンにかかったが軽く無視。例にもよって爆弾を踏むのが得意な男である。
 直後にフィルがハリセンを振り下ろしレンがそれを受けるという、音もない実に静かなる戦いが始まったのだが、こちらはフレイとティティが軽く無視。こんなものにいちいち付き合ってなどいられない。
「あのー、フィルさんはリーディアに行きたいんですか?」
「さん、は結構よ。
 ――正確にはリーディアじゃなくて神殿ね。土の月神の神殿」
 ぐぐぐ、と両手のハリセンを引いたり押したりしつつフィルが答える。どうやら今度は両方とも防がれてしまったらしい。人間とは学習する生き物だ。
「はあ……それまた何故」
「ちょっと呪われちゃってねー。封印はしてもらったけど新月の度にかけなおさなきゃいけないらしいし、とにかく色々困るから呪い解いてもらいに行くつもりだったわけよ」
 言いながらハリセンを収める。どうやら不毛な争いをしていることに漸く気付いたらしい。今更だが。横ではレンがこっそりと安堵の息をついていた。
「そ、それはまた随分と大変そうですね……」
「そうなのよ大変なのよ。
 その上更に問題発生だなんてほんっとついてないわ……」
「あ、じゃあ南に行ってみるのはどうですか?」
「南……つったって、南にはどーんと平原が広がってるだけじゃない。
 アシュタルスに行くのだって大陸経由した方がずっと早いわよ」
「でも南に行けばアヴェリスがあるじゃないですか」
「アヴェリス?」
 フィルは眉根を寄せて首を傾げた。アヴェリスと言えば、それこそどんな辺境の村の子供でも知っている、それほど有名な場所だ。
 クイスナ大陸の南部に連なる山脈、それを超えた先に存在する古代遺跡アヴェリス。ただしその実、詳しいことは何一つわかってはいない謎の建造物でもある。
 どういうことかと問われれば答えは単純。誰一人として、遺跡の内部に入ることができないのだ。
 ルースヴェルクが建国されておよそ300年。それより遥かの昔から存在していたとされるアヴェリスに足を踏み入れようとした者は数知れない。
 だが現在に至るまで、未だその固く閉ざされた門扉は人の侵入を許しはしなかった。
 破壊しようとしてもそれすら敵わない。結果、遺跡を調査しようとした人々はそれが魔道によってなされたものと判断した。
 遥か昔に作られた筈の建物にかけられた魔法が、幾百年の時を経た今でもその力を失わずに働き続けているのだ。
 しかしこの際その辺りの詳しい話はともかく、何故この状況でアヴェリスへ向かうという話が出るのだろうか。
「あんな年中休業中みたいな遺跡に行ってどうしろってのよ」
「休業中ってお店じゃないんですから……
 聞いたことありませんか?」
 そこで一区切り、ティティは小さく息を吸い込む。
「……神の起源は神々の宿りし六対の鏡に在り。六対の鏡の起源は神の与えし一枚の鏡に在り」
 歌うような意味成す言葉の羅列。三人は暫し無言のままに聞き入る。
「……神々の記憶は鏡に宿り、鏡の記憶は神々の古き都市に眠る。古の都市の記憶は守人へと受け継がれ、守人は永久に神々の記憶を守り続ける」
「何それ、初めて聞いたわ」
「え……だってこれって聖書の一文ですよ? 村の子供だって、教会に行く子なら誰でも知ってますよ?」
「悪かったわね子供以下で。
 だって聖書なんか読まないし、読んだとしてもあんな分厚い本の中身なんて覚えられるわけないじゃない。教会にだって行ったことないしね。
 フレイ、あんたは?」
「オレもないよ」
「レン……はなさそうよね。
 てかあってもどうせ寝てばっかりで話なんて聞いてなさそう」
 当然、とばかりに言い切ったフィルの言葉にレンが眉間にしわを寄せる。
 だが何も言い返さなかった辺り、あながち間違ってもいないのだろう。普段無表情で考えの分かりにくい男であるが、こういう部分は妙にわかりやすい。
「アヴェリス、ねぇ……どうせここにいたって捕まっちゃうかもしれないらしいし、グラスカに戻ったとしても既に手が回ってる可能性だってあるわけだし……ならダメ元で行ってみるってのもありよね。
 ダメならそのままアシュタルスに渡ってカセルドにって手もあるわけだし。あんた達どう思う?」
「オレは別に文句はないよ。ここの南にもアシュタルスにも行ったことないから寧ろそっちの方が面白そう。
 兄ちゃんは?」
「……別に」
 恐らく『文句はない』ということだろう。
 たとえ文句があったとして、この状況でフィルがそれを聞き入れるかどうかは甚だ怪しいものであったが。
「じゃあ決定ね。
 とりあえず今日はもうここに泊るとして、明日から南に向かって出発ね」
「あ、あの」
 横から入った声に三人が一様にそちらを振り向く。あまりに同じタイミングで振り返ったためティティは驚いたように一瞬肩を揺らしたが、息を吸って再び口を開く。
「あの、よろしければ私も一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「一緒に? どこまで?」
「どこまでっていうのはないんですけど……南に行きたいんです」
「南ねぇ……ちなみに貴方、旅の経験は?」
「あ……つい最近から、です……」
「これから先は平原とは名ばかりのほとんど荒れ地を進む旅よ。途中に村や街もないし、あそこには魔物も多いって話。
 はっきり言わせてもらうと、経験の少ない上にどう見ても体力に乏しそうな貴方を連れて歩くのは無理無茶無謀もいいところ」
「……です、よね……」
 フィルの言うことは正論だ。整備された街道を歩くのとは違い、これからは道なき道をゆく旅。体力のない者が進むには相当厳しい旅となるのに違いはない。
「でも」
 その言葉にうつ向き気味だったティティが顔を上げる。
「折角教えてくれたのにその人ほっぽってそれじゃあってのも寝覚めが悪いってのも確かなのよね。
 それに、私達聖書の中身なんてこれっぽっちも知らないから、貴方が来てくれないと話す内容に困っちゃうし」
 おどけたようにそう言って見せたフィルは、ティティに向けて小さく笑み手を差し出した。
「一緒に行きましょ、ティティ」
 他二人に意見は求めなかったが、その二人はやれやれとばかりに肩を竦めるだけで何も言わない。
 フレイもまた口元に小さく笑みを刻んで、レンはいつもの無表情でその様子を眺めている。
 そして小さな手はゆっくりと、しかし差し出されたフィルの手を強く握り返した。




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